5月15日に行われたドコモの夏モデル発表会は、驚きをもって迎えられました。ジリジリと市場シェアを落としつつある厳しい状況の打開策として、新たに「ツートップ」戦略が示されたからです。私はこの情報をネット上で知りましたが、ついにドコモもルビコン川を渡ったのではないか、と感じました。
その理由の第一は、売れる機種へのシフトを誰もがわかる形で行ったことです。今までもこうした手法は採られてきましたが、あくまで短期間に行われる「販売店施策」というオブラートに包んでいました。今回のようにダイレクトに顧客にアピールするのは、初めてだと思います。
第二の理由は、その対象としてサムソンとソニーの製品が採用された点です。「GALAXY S4」「Xperia A」の両機種が強い商品力を持っているのは確かですが、今回の施策によってさらに圧倒的なシェアを獲得するのではないかと思われます。電電公社の時代からドコモとともに歩んできたNECカシオ(旧日本電気)、富士通、パナソニック、三菱電機のうち、すでに三菱電機は2007年を最後に撤退し、NECカシオも事業売却が予定されていますが、まがりなりにも現役で残っている2社も「その他諸々」に追いやられることになります。
端末機の多機能性や、i-modeに象徴されるネットとの親和性、料金収納モデルを世界に先駆け実現したのはまぎれもなく日本の携帯電話でしたが、結果的に「ガラパゴス」として世界市場から締め出され、今や国内市場からも淘汰されかかっています。
注意しなければならないのは、こうした流れはデジカメ分野とも密接にかかわっているということです。
SAMSUNGのGALAXY S4が搭載するメインカメラは、有効1320万画素の裏面照射型CMOSです。最大感度はISO800で、フルHD・30fpsでの動画撮影にも対応しています。ソニーのXperia Aのメインカメラは有効1310万画素の裏面照射型CMOSで、最大感度はISO1600、S4同様に30fpsでのフルHD動画撮影も可能です。以前、iPhone5のカメラ性能をチェックしましたが、一昔前のコンパクトカメラと同等以上の実力を発揮していましたので、おそらくこれらの機種も実用上十分な描写力を持っていることが推測されます。ちなみに2012年度の国内市場を見ると、デジカメ出荷台数約900万台に対しスマートフォンは約2900万台に上っています。「デジカメ機能」という視点で見れば、すでに国内シェアの大半は海外メーカーによって占められていると言えます。
国内のデジカメ各社は、スマートフォンの追い上げに対し、高性能モデルにシフトしつつあります。私もこうした方向性は正しいと思いますが、しかし問題は積極的にこうした施策をとったというよりは、そうせざるを得ないところに追い込まれているのではないか、という思いが残る点です。しかも、高性能モデルで期待されるレンズ交換式カメラも、デジタル一眼レフからミラーレスカメラへと、より参入障壁が低くなりつつある状況の中、デジカメ市場全体を一気に浸食されてしまう可能性もあります。
今から携帯電話市場を取り戻すのは、不可能に近いかもしれません。しかし、デジカメ市場を確保し続けていくことは、まだ十分可能だと思います。あらためて携帯電話の歴史から丁寧に学ぶことが、求められているのではないでしょうか。
※写真はカメラ機能を搭載した初の携帯電話、京セラVP-210 DDIポケット。約11万画素のCMOSセンサーを搭載。発売は1999年9月。