デジタル一眼レフやミラーレスカメラの初心者にとって、「次のレンズ選び」は大きなテーマです。カメラ本体と一緒についてきた標準ズームや望遠ズームでも一通りの撮影はできますが、やはりレンズを揃えることで撮影や表現の幅を大きく拡げられるのがレンズ交換式カメラの魅力であり、その意味でも「次の1本」は慎重に選ぶ必要があるかもしれません。この「次の1本選び」については、ちょっと長文ではありますが、「レンズの種類と選び方のポイントは?」を読んでいただければと思います。
さて、この記事を整理している時に改めて感じたのは、デジタルカメラの進化によってレンズのトレンドも変わりつつある、ということです。もっと具体的に言えば、イメージセンサーと画像処理エンジンの進化によって、フィルムカメラよりも飛躍的に高感度性能が向上したことが、レンズのトレンドに変化をもたらしているのではないか、ということになります。
「明るさ」の重要性が低下?
言い換えると、交換レンズにおける「明るさ」の重要性が徐々に低くなっている、ということです。
明るいレンズの一番のメリットは、暗いシーンでも早いシャッタースピードを切れることです。開放F値がF4.0のレンズでは1/2秒でしか切れなかったシーンが、F1.4のレンズであれば1/16秒で撮影することができるので、手ぶれの危険性が低下します。フィルム時代には、ネガフィルムでもISO800が実用上の上限でしたので「より明るいレンズ」は極めて重要でした。
手ぶれの防止と言うことでは、1994年に初の光学式手ぶれ補正機能を内蔵したコンパクトカメラ、ニコン ズーム700VR QDが登場し、翌年には手ぶれ補正機能を内蔵した交換レンズ、キヤノンEF75-300mmF4-5.6 IS USMがリリースされたことも、大きな節目となっています。すべての手ぶれに対応できるわけではないものの、ブレのない写真を撮る上で「手ぶれ補正機構」の有効性が改めて確認されたように思います。
フィルムからデジタルに移行した当初は、高感度性能は必ずしも向上したわけではありませんでしたが、その後のイメージセンサーや画像処理エンジンの進化により、急速に実効感度が強化されてきました。ニコンD4Sや6月に発売されるソニーα7SではISO409600まで設定が可能となっており、ISO102400あたりであれば十分常用可能なノイズレベルであると思われます。
手ぶれ補正機能と高感度性能の向上により、少なくとも「手ぶれ防止」という観点では、レンズの明るさの持つ重要性は、確実に以前よりも小さくなっています。しかし、レンズの明るさは、手ぶれ防止だけでなく、ボケ表現にも関係してきます。より明るいレンズであれば、ボケ具合の幅を拡げることが可能です。
しかし、ボケ表現ということでも、以前とは状況が少々変わってきているように思います。ボケ具合は概ねレンズの有効口径(焦点距離を開放F値で割った数値。大きければ光をより多く集められることを示します。)に比例します。たとえば、50mm相当F2.0のレンズと100mm相当F4.0のレンズの有効口径は同じですので、この2つのレンズのボケ具合は概ね同じと考えることができます。ここでのポイントは、イメージセンサーのサイズが小さくなれば、有効口径も小さくなり、ボケも小さくなるということです。
たとえば、描写性能に定評のあるソニーの高級コンパクトDSC-RX100M2は、1型センサーに10.4-37.1mmF1.8-4.9のレンズを搭載しています。これの焦点距離と開放F値を35mm版に換算すると、28-100mmF4.9-13となります。同様に、APS-Cサイズのレンズ交換式カメラで一般的なキットレンズである18-55mmF3.5-5.6を35mm版に換算すると、27-83mmF5.3-8.4になりますので、ボケと言うことではキットレンズでさえ、描写性能を重視した高級コンパクトと同等以上のボケが表現できることを示しています。
さらに1/1.7型サイズのセンサーを搭載した一般的な高級コンパクトと比較するのであれば、キットレンズでも楽々と凌駕できることになります。コンパクト型高級コンパクトとして定評のあるキヤノンPowerShotS120には、1/1.7型イメージセンサーに5.2-26mmF1.8-5.7のレンズが搭載されています。これを35mm版に換算すると、24-120mm相当F8.3-26.3となりますので、先ほどのキットレンズでさえいかに有効口径が大きいかがわかるかと思います。他方で、DSC-RX100M2やPowerShotS120ではボケ表現を楽しめないかと言えば、工夫次第で十分活用できるのも事実です。つまり、キットレンズレベルの明るさがあれば、多くのシーンでは実用十分なボケ表現を楽しめるということだと思います。
実際に、ミラーレスカメラ用の新型レンズを見ると、フィルム時代と比べてレンズの明るさが抑えられる傾向にあるように思います。比較的レンズ設計が容易でコンパクト化も可能な単焦点レンズではあまり違いは感じませんが、それでも35mm版に換算した時、フィルム時代の大口径レンズであるF1.2やF1.4相当のレンズはほとんど見当たりません。さらに、より複雑な設計を要するズームレンズでは、F2.8通しのものよりもF4.0通しの方が主流になりつつあるようにさえ感じます。このことは、レンズ設計に手を抜いてコスト削減をしているということではなく、レンズ設計の方向性が「より明るい」レンズから、解像力や収差を含めた総合力で優れたものへと軸足が変わりつつあることを示しています。
「明るさ重視」から「総合力重視」へ
フィルム時代からカメラに親しんできた方であれば、「明るいレンズ=描写性能の高いレンズ」というイメージを強く持っていると思います。このことは今でも必ずしも誤りではありませんが、一見凡庸な仕様に見えても描写性能の点で高い総合力を持ったレンズが多く生まれてきているということが、最近のレンズのトレンドと言えるかもしれません。その意味では、今まで以上にレンズ選びが深く、難しく、そして面白くなったと言えそうです。
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